2022-01-01から1年間の記事一覧

ビリー姐さんが教えてくれたこと

ボクがビリーホリデイを知ったきっかけは、サザンオールスターズの『星空のビリー・ホリディ』だった。小学生のボクがジャズの良さをわかるはずもなく『奇妙な果実』を聞きながら「これの何がいいんだろう」と思った記憶がある。 あれから数十年がたち、あい…

ビバ!コロナ

早く収監されれば早く出てこれる。そのことはよくわかっているんだが、できるだけ判決は先延ばして欲しい。まだこっちにいたい。心のどこかでいつも思っていた。 ボクの祈りはコロナという呪いに姿を変えて弁護士の先生をおそった。 ガラガラになった声で息…

KM百景 3

KM67 家に帰るまでがキメセクです。 KM68 そらで言える電話番号は実家と売人さんだけ。 KM69 覚醒剤を使うと絶対性感の持ち主になる。 KM70 アル中はガンマ値の高さ。ギャンブル依存は借金の額。薬物依存だと捕まった回数。みんなわかりやすい数値でマウント…

KM百景 2

KM34 キメ演技ナンバーワンは「日本で一番悪い奴ら」の綾野剛。 KM35 マスク社会になって歯を食いしばるのを気にしなてよくなった。 KM36 虫歯になるのは唾液がでなくなるのと歯を磨かなくなるから。覚醒剤の作用ではない。 KM37 スリップごときで揺れる医療…

KM百景 1

KM1 覚醒剤は嵐だった。思考を吹き飛ばし、感情を弄び、時間を取り込み、生活をなぎ倒し、するりとボクにとりついた。さてこの内なる嵐どうしたものか。 KM2 理性を捨てるためのクスリを理性でコントロールしようとるする無様。 KM3 薬物で捕まった芸能人の…

だってハームリダクション

底付き体験が依存からのスタートだという説にはボクは疑義をとなえたい。アディクションの沼はいつだって底なしだから。 どちらかといえば、アゲアゲに上へ上へと遥か彼方、凧糸がプツンと切れてしまい視界没するようにきっちりと昇天できてこそ、依存を手放…

「ただいま」といえる場所、すなわち「ホーム」

セカンドの職場のクリニックに顔を出した。 ドクターはなんともない顔をして「おかえり」といってくれた。 ボクもなんともない普段の調子で「おかえりじゃないっすよ。これから行くことになるんですよ」と答えた。 ソーシャルワーカーが「そういう面白いやり…

ドラッグマンウォーキング

核爆弾の中から純白の鳩があらわれるように、キメ明けは誰もが聖者になる。漂白されたような脳みそで弁護士の先生と打ち合わせに弁護士会館へ向かった。 コロナ禍の煽りを受けかなり先になるという予想を裏切り、初公判は来月に設定されたそうだ。違法捜査を…

勘ぐりジャーニー 〜ファイナル〜

ハッテン場の個室で目が覚めたときにはチェックアウトの時間を大幅に過ぎていた。ボクは延長料金を支払い外に出た。冬晴れのとてもいい天気だった。太陽に照らされたボクの腕にもう注射痕は見当たらない。乾いた風にボクの勘ぐりも消えていった。今だったら…

勘ぐりジャーニー 〜ハッテン場編〜

東京に戻ってきたはいいが、ボクには居場所がなかった。きっと助けを求めたらみんな親身になってケアしてくれることはわかっているのにそれができない。こんな風にがんばれてしまう自分が心底嫌いなんだけど、それ以外に手段がない。 ボクはハッテン場に戻っ…

勘ぐりジャーニー ~埼玉編~

始発時間を待ってチェックアウトした。 外に出た途端、勘ぐりが炸裂した。 誰かが追ってくるそんな追跡妄想がボクを支配した。 こんな朝っぱらから休める場所をボクは知らない。あてどもなくボクは歩き続けた。 朝日が眩しかった。 本当に眩しくて…眩しくて…

勘ぐりジャーニー ~東京編~

ハッテン場を出たら、そこは妄想天国だった。 誰かにつけられている。 狙われている。 自宅も張られてる。 部屋には監視カメラがつけられている。家宅捜索の時に刑事がつけていったに違いない。家には戻れない。 ATMを使うと居場所がばれる。 今ある現金でク…

全裸刑事

捜査担当の警察官は違法薬物の巣窟的イメージのあるハッテン場に潜入捜査をする。それは新人捜査官の任務の一つになっていると五年前、新宿の取り調べの警察官が言っていた。 ハッテン場…店の雰囲気やフロアの様子、客層、中でなにかどう展開されているか、…

自分ふしぎ発見

まず家に帰って自分が何をするのかに興味があった。 ワイアレスのスピーカーをオンにしてお気に入りを流した。次にバスルームへ向かい浴槽に熱めのお湯を張った。ザブンとつかり湯船にゆかって、You Tubeでミラクルひかるの新ネタで笑った。仕事のメールやラ…

さよならさえ上手に言えなかった

さよならの挨拶ができなかったことが唯一の心残りだった。 通常なら担当から「ロッカーの荷物片付けて!」なり「明日の自弁はないから!」なり何かしら事前にその日に保釈になるであろうサインがある。そのタイミングで同室者に「お世話になりました」「みな…

ノンタイトリスト

なにが成人の日だ。選挙にも行かない奴らがどんちゃん騒ぎするだけの日じゃないか。そんなのをどう祝えってんだ。ボクのこの気持は純度の高い嫉妬である。ずいぶんと心の狭い大人になってしまった。 刑務所に入ると選挙権はなくなるし、国家資格も失効になる…

Sunny Sunday

明日が月曜であることが唯一つの救いである日曜の昼下がり。 考えすぎて頭が痛くなり、床に大の字になり寝そべった。 感染症対策のため全開になった窓からの風が冷たい。 「窓を締めてください」と担当に要求する。 ボクは思考も感覚も持久力がたりなさすぎ…

精神のスカトロ

まるっと何もない一日。自弁がない分、年末年始より長く辛い連休の中日。ほとんど動かずに本を読んで過ごす。「本を読む男」という絵画のモデルになった気分だ。 手持ちの本も読み終えてしまい昼間から不貞寝でやりすごす。昼寝したら夜眠れなくなる?そんな…

待つ男

保釈の連絡は来なかった。 感覚が研ぎ覚まされていく。そろそろチャクラも開くだろう。研ぎ覚ますだけ研ぎ覚まし、結局何もキャッチできない徒労感。 一日の終りに反省はいけない。その日のよかったことを思い出すのがメンタルにはいいらしい。 こんな場所な…

面会

同じアディクト仲間が面会に来てくれた。職場の人とは違ったプレッシャーがある。 かっこつけてたくせに捕まってやんの。無様だなあ。 そんな風に思われてるかもと勝手に怯える。そう思っているのは自分だけだとはわかっている。誰かのスリップにやさしくす…

お年玉100万円

押送も新入も年末からほとんどない。留置での年越しを経験して知れたことは、悪さをするなら年末年始を狙えばいいという事実だった。 正月三が日が過ぎ、面会に弁護士の先生が来る。社会が動き始めたことを実感する。 今回はいい報告だけを持ってきてくれた…

殴られたあの日

年末年始、保護室に連行されていく者の多いこと多いこと。皆、エレルギーの出し場がないんだろう。 ボクは大声もそうだし、力でねじ伏せ合うような場面が苦手だ。大きなトラウマ体験があったわけでもないが…いや一度だけ殴られたことがあったっけ。もしかし…

あいかわらずなボクだ

格子の向こうの磨りガラス越しにも今日の空がきわめて美しいものであることがわかる。美しさはいかなる障壁も超える。 どこかの部屋から享楽的な笑い声が聞こえる。不安をあおるタイプの笑い声。どうしてシラフであんな風に笑えるのだろう。 誰かの空嘔も響…

賀正二〇二二

新年、明けましたがまったくめでたくありません。 留置所の正月は喪に服したように静まり返ってます。静かすぎて耳が潰れそうです。 同じ部屋には4人の同囚がいますがみな各々の体勢で横たわっています。寝息がなければほとんど溺死体です。 ここでは特に不…

暇富豪の年越し

お得意の自虐もなりをひそめる留置所の大晦日。これは確実に孤独である。孤独であることはわかるけど寂しいと感じているかといえば怪しい。ボクの病的部分である。 留置でも大掃除がある。ボクらではなく担当たちが担う。舎房の前面のトタンの目張りがとっぱ…

終わらせた日記

依存症は完治のない慢性疾患だ。いくら渇望を乗り越えてもそれは誰にも見えない。ボクの前にはやめれなかった実績だけが積み上がる。因果ですねえ。 以前ボクは『終わらせたい日記』というブログを書いていた。書き記すことなんて何もない平凡な毎日をおくる…

弟よ

「弟さん帰ってきてるみたいですよ」と弁護士の先生が教えてくれた。母親から聞いたらしい。 弟は妻と子供を残し数年前からとある社会主義国に単身赴任をしている。コロナ禍なので、帰国はできないだろうと思っていたがどうにか帰ってきたようだ。 物理的距…

高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな

「いい知らせと悪い知らせがあります」 これが面会室に入ってきた弁護士の第一声だった。 保釈されるんだったら悪い知らせがどんなものであってもかまわない。罰当たりにもそう願った。 「保釈の許可がおりました」と弁護士は言った。 じゃあ悪い方は?とボ…

はいっ!次行ってみよう

この一週間は保釈を勝ちた取るために費やせる限りのエネルギーを投じた。 起訴されたショックはまだあるにはあるが、そこにとどまる暇はない。 こういう気分の立て直しがボクはとてもうまい。(ネガティブの持続力が欠落しているともいえるが…)。 弁護士の…

ゆらゆら天国

たくさんの死んだ金魚が白くなって沈んでいる水槽。モーターの水流にゆらゆら流れているやつもいる。目の周りには棘みたいな黴がびっしり生えている。細部までえらくリアルだ。 これまで夢なんか見たことがなかったのに、最近飲み始めた眠剤のせいだろう。 …