ビリー姐さんが教えてくれたこと

ボクがビリーホリデイを知ったきっかけは、サザンオールスターズの『星空のビリー・ホリディ』だった。小学生のボクがジャズの良さをわかるはずもなく『奇妙な果実』を聞きながら「これの何がいいんだろう」と思った記憶がある。

あれから数十年がたち、あいかわらずジャズのなんたるかはわからないままだが、少しは人の心の機微みたいなものに心はせることができるようになったボクは『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs ビリー・ホリデイ』という映画で彼女に再会した。

人種差別をテーマにした映画だったが、薬物問題が絡まって一人の人間を翻弄する。どうしようもないほどに追い詰められた彼女の様子をみて、甲斐甲斐しくヘロインを準備するバンドメンバーとその注射器を怒りにまかせ叩き割るパートナーのどちらがホンモノの愛であるか、ボクにはわからなかった。

 

かつて薬物依存症者は生存競争の波から締め出されて孤独に死んでいくしかなかった。今も多くの薬物依存症者が声もなく姿を消していく。だけど、わずかにだが息をさせてもらえるオアシスが現れ始めた。少なくとも東京にはある。この時代に薬物依存になったのであれば、そこを自分の居場所として利用するのは使命なのだと思えた。そのオアシスを憩いの場として利用してもよし、活動の踏み台にするもよし、その選択は未来の自分にまかせよう。

1947年、彼女が「刑罰でなく支援を」と叫んでから、2011年、世界が薬物戦争への敗北宣言を表明するまでに60年以上がかかった。今、日本の法廷で「刑罰でなく支援を」と迷わず求めることのできるアディクトはどのくらいいるだろう。

世間が正しさに気づき、正しさがやさしさに変わるまではとても時間がかかる。それは途方もない時間で、もしかしたら自分の人生では間に合わないかも知れない。

だけど「この歌をあなたの孫が歌うはずだ」と彼女が言い切ったように託す未来を信じて自分の言葉を放ち続けたい。

 

収監まで後30日

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レディ・デイとのツーショット