勘ぐりジャーニー ~埼玉編~
始発時間を待ってチェックアウトした。
外に出た途端、勘ぐりが炸裂した。
誰かが追ってくるそんな追跡妄想がボクを支配した。
こんな朝っぱらから休める場所をボクは知らない。あてどもなくボクは歩き続けた。
朝日が眩しかった。
本当に眩しくて…眩しくて涙が出た。
駅までが散々遠くて、スーパアリーナがデカすぎて、泣きながら歩いた。
ボクには行き場所も帰る場所もない。
保釈されたときに刑事が「自殺するなよ」と言っていたのを思い出した。
誰も許してくれないなら一緒に逃げようって泣いたよね♪
マッキーのPENGINを口づさみながらなんとかシラフを保とうとがんばった。
与野という標識が見えた。聞き覚えのある地名。昔つきあっていた彼氏がこのあたりに住んでいたはずだ。ボクは付き合っている間、一度も彼の家に行くことはなかったのでどこかはわからない。しかも随分昔の話だからまだこのあたりにいるかすら怪しい。
別れるときに「結局、一度もウチには来なかったね」と言われたのを思い出した。ボクは「えっ?だって東京に来たかったんじゃなかったの?」と悪びれもなく答えた。東京に住んでいる者が埼玉に行く理由がわからなかったんだ。彼は何もいわず去っていった。
埼玉にボクの居場所はない。そんな風に思えた。
ボクは埼京線に乗った。
長く歩いたせいでボクの体は冷え切っていた。
ボクは冬の言いつけを守って咳をした。溜めこんだ分、むせこむような咳だった。
電車の中は誰も無反応。ボクだけが罪悪感の世界。
駅につき女性が立ち上がった。
降りるのかと思ったが遠くの席に歩いて行きすとんと座った。
ポーカーフェイスによる見事な時間差攻撃。
蔓延防止法の世界において咳人間は危険因位とみなされ差別の対象となる。
自治体のお墨付による迫害が罷り通る。
用心社会日本が完成形に近づきつつある。
あっちもこっちも息苦しい。
少し考えることができるようになった。
妄想も手が出ないくらいに疲れてきた証拠だ。
窓の外は馴染みの風景。東京に入ったんだろう。
家に戻るのはまだ怖い。
さて、どこに行こうか。
収監まで後40日
一緒に逃げようと言ってくれる誰かがいるだけ幸せだよな。