暇富豪の年越し
お得意の自虐もなりをひそめる留置所の大晦日。これは確実に孤独である。孤独であることはわかるけど寂しいと感じているかといえば怪しい。ボクの病的部分である。
留置でも大掃除がある。ボクらではなく担当たちが担う。舎房の前面のトタンの目張りがとっぱわられ廊下から部屋が丸見えになる。動物園の獣と同じだ。
「最悪なクリスマスだな」のつぶやきあいから一週間が経ち、吐き出す言葉が「最悪な大晦日だな」に変わる。あと数時間後には「最悪な正月」がはじまる。ただそれだけだ。
とりあえず盛り上がらない。
とりあえずつらい。
とりあえず「つらい」よりも「しんどい」という表現がしっくりくる。
とりあえずの時間と場所はとりあえずの存在でしかない。
昼食の自弁はそばではく、ナポリタンだった。年越しナポリタン。一応麺類つながりなのか、とりあえず感謝する。
深夜、除夜の鐘で目が覚める。近くに寺があるんだろう。7回まで数えて再入眠。消えていく7つの煩悩。手放すことで辿り着く場所はどこなんだろう。すべての煩悩を捨て去ってしまってもボクはまだボクのままでいられるんだろうか。
『繚乱』黒川博行
黒川博行を知れたことが今年(ここで)の唯一の収穫でした。