「ただいま」といえる場所、すなわち「ホーム」

セカンドの職場のクリニックに顔を出した。

ドクターはなんともない顔をして「おかえり」といってくれた。

ボクもなんともない普段の調子で「おかえりじゃないっすよ。これから行くことになるんですよ」と答えた。

ソーシャルワーカーが「そういう面白いやりとりいらないから」とたしなめた。

 

再会にみなが思い思いを吐き出す。多分ボクのいないところでボクの話はしなかったんだろう。

「だいたい任意捜査の域をを超えている。違法捜査で入手した証拠を証拠にした裁判なんておかしい」

「刑務所入れて作業させても何の意味もないだろう」

「収監こそが一番のハーム(害)ってことがなんでわかんないのか」

「ちょっともう!どうにかなんないの?」

「3月のBTSのライブあるんですけど…」

「もう逃げちゃえば」

「逆に訴えようよ」

「二年なんか早い早い」

「正直いってリスペクトなんですよね」

「入ったら中の様子、手紙とかで発信するとかおもしろくない?」

「やっぱりアウトプット大事ですよね」

「どんどん逸材化していきますね」

 

この人達大丈夫なのか?

倫理感が欠如しているであろうこのボクにそう思わせてしまうほどの発言の自由っぷり。

言いたくて言えなかった言葉を誰かの口から聞くうれしさ…間違いない、これは確かにアドボケイトだ。いつか誰かに言ってあげたいなあと思う。

彼らはとんでもない悪送球を顔色も変えずパシッとミットにおさめるキャッチャーみたいに今回のボクの暴力的な所業を軽く受け止めた。これもひとえにこれまでのボクの働きぶりの有能さたるゆえん…というわけでなく、それが誰であっても同じシーンになったように思える。正義が共有されているとはこういうことなんだ。だからボクは申し訳なく思わなくてすんだ。

このやさしさに答えるため、ボクは今後一切「すみません」を禁句にすることにした。明日から判決までしばらくある。できるだけ長く働き、名残惜しんで塀の向こうへ行こうと決心した。

 

収監まで後36日

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『声もなく』

救いようもないこってりした映画ってなるとやっぱり韓国映画になっちゃいますね。