2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

終わらせた日記

依存症は完治のない慢性疾患だ。いくら渇望を乗り越えてもそれは誰にも見えない。ボクの前にはやめれなかった実績だけが積み上がる。因果ですねえ。 以前ボクは『終わらせたい日記』というブログを書いていた。書き記すことなんて何もない平凡な毎日をおくる…

弟よ

「弟さん帰ってきてるみたいですよ」と弁護士の先生が教えてくれた。母親から聞いたらしい。 弟は妻と子供を残し数年前からとある社会主義国に単身赴任をしている。コロナ禍なので、帰国はできないだろうと思っていたがどうにか帰ってきたようだ。 物理的距…

高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな

「いい知らせと悪い知らせがあります」 これが面会室に入ってきた弁護士の第一声だった。 保釈されるんだったら悪い知らせがどんなものであってもかまわない。罰当たりにもそう願った。 「保釈の許可がおりました」と弁護士は言った。 じゃあ悪い方は?とボ…

はいっ!次行ってみよう

この一週間は保釈を勝ちた取るために費やせる限りのエネルギーを投じた。 起訴されたショックはまだあるにはあるが、そこにとどまる暇はない。 こういう気分の立て直しがボクはとてもうまい。(ネガティブの持続力が欠落しているともいえるが…)。 弁護士の…

ゆらゆら天国

たくさんの死んだ金魚が白くなって沈んでいる水槽。モーターの水流にゆらゆら流れているやつもいる。目の周りには棘みたいな黴がびっしり生えている。細部までえらくリアルだ。 これまで夢なんか見たことがなかったのに、最近飲み始めた眠剤のせいだろう。 …

いつかのメリークリスマス

前略 雨は夜更け過ぎに雪へと変わりましたか? ここでは季節がいつだかわからなくなるくらい、型通りな毎日が繰り返されています。刺激に支えられた人生に慣れ親しんだボクは今とても不幸です。不幸に充実しています。けど、この不幸は将来ボクに笑いとばさ…

ザラザラ系男子

平日の昼食は通常のコッペパンと惣菜にプラスして、自弁(自己負担で一品と紙パックのドリンク)を注文できる。カレーライスやハンバーグ、唐揚げなどがっつり目のメニューが多い。自弁の量が多いときにはパンが食べれなくなることがある。 テンポはゆっくり…

担当さんの話

不安、諦め、絶望。昨日も今日も明日も、そういうものだけを食べて過ごしているとこういう顔つきになるのかもしれない。ぞっとするような暗黒の底なしの穴のような目がある。 勾留されている者ではなく、留置担当の警察官のことだ。 もちろん人のいい担当も…

世界で一番ちいさな宗教

ここは「無知は罪の世界」だ。 法律に関する情報量こそが自分を助ける力になる。だけど、その情報の供給源となり得るテレビもラジオもネットもここにはない。一応、辞書と六法全書の貸し出してはくれるが、専門用語ばかりで読みこなすのことができる輩なんて…

キメセク御膳

傷害や窃盗の人が示談や嫌疑不十分で釈放されていく。笑って送り出せない。ボクのメンタルは調子が悪い。 「どうしてなんにも悪いことをしていないオレが…」に取り憑かれ憤る。へその奥あたりがきゅっとなる。ここに来た日のあの発作がやってきそうな兆候。…

ボクは何も悪くない

女性タレントの自死のニュースで部屋はしみったれた雰囲気だ。閉塞した環境はネガティブが伝染しやすい。そこにホスト君への「追起訴」の通知。かける言葉がない。 タイミングよく弁護士の先生が面会に来てくれ、ボクは逃げ出すように部屋を出た。 「今、保…

赤紙

勾留期限を待たずに起訴状が届く。 考えるまでもないという検察側の意思表示なんだろう。 どこまでも感じ悪い。 99.9パーセントの有罪が確定した瞬間だった。 部屋の小窓から起訴状を受け取ると「ぷっ」っとおならが出た。脳より先に腸が刺激されたらしい。 …

マスク奇譚

新しいマスクをつけてうたたねをしたらべっとりとよだれがついてしまった。地味に凹む。もちろん交換してはもらえない。ここではマスクの交換は火曜。つまり一週間同じマスクを間使い続けるわけである。 新宿留置は昨年クラスターを発生させたため勾留者を他…

希望の光

昨日、押送から留置へもどり夕方の弁当を食べていると「明日も地検に押送予定だから、自弁なしね」と担当が伝えてきた。 「またか」とうんざりはしなかった。 勾留期限はすぐそこまで迫っている。調べがあるということは、オレの処遇はまだ決まっていないん…

天王山…負け戦

地検も今日で三回目。今回は、起訴不起訴のキーとなる捜査方法についての聴取がなされた。 「黙秘します」とボクは伝えた。 「弁護士はすぐに黙秘っていうからなあ。私はあなた自身の言葉で聞きたいんです」と検事に言われ、ボクははっきりしている事実に関…

名勝負

新入が来た。 正しくは新入ではない。彼はここに勾留されてもう一ヶ月以上たっており、起訴され拘置所への移送待ちのいわばベテラン域の人材だから。前にいた部屋で同室者からこづかれていたのが見つかり、トラブル予防で転室となったらしい。 特殊詐欺で捕…

メジャートランキライザーの威力

メジャートランキライザーの威力をまざまざと見せつけられた。 先週からニューレプチルを食後に三錠処方されはじめたホスト君が起きれない。食事と点呼の時間以外はずーっと眠っている。「受刑期間をあっという間に過ごしたいんだったら精神薬をどっさり処方…

反故室

向かいの部屋に不穏の気配。ひとり部屋の新入と担当が何やらやりあっている。きっかけが何かはわからないが、状況は芳しくない。明らかに担当があおっている。 逮捕されたてでクスリが抜けていないやつだったりすると感情的になりやすく(というかそもそもこ…

アクリル板、スエット姿、制限時間20分

面会の呼び出しがあった。職場の人達だ。 会わせる顔がない。それでも会うしかない。留置の面会とはそういうものだ。 「新宿」とマジックで大きく書かれた灰色のスエット上下。なかなかにダサい。どんな顔をしていいかわからないとボクは笑ってしまう。へら…

ひとつきれいにすれば、ひとつやさしいになる

「ひとつきれいにする。ひとつやさしいになる」 以前の職場のトイレにはそんな張り紙をしていた。 Coccoの名言「ひとつ痛いを出す。ひとつやさしいになる」のもじりだ。 ここでも二日に一回トイレ掃除の時間がある。そのトイレ掃除をホストくんは一切やろう…

此邦ニ生レタルノ不幸

検事調べのため地検への二度目の押送だった。 弁護士は毎日のように来てくれて、不起訴になるための材料(つまりは、任意捜査の限度を超えた違法捜査であったという根拠)をボクとの会話の中から探してくれる。 「できる限り黙秘を通すように。検事には、ま…

彩り浴場

留置所の風呂場は色とりどりに鮮やかだ。特に新宿署ではボクのようなしらふの肌は珍しい。湯船で最近入ってきた別の部屋の若い子と話をする。彼の体にもまだ彫り物はない。 「何やったの?」挨拶代わりに聞いた。 「彼女と喧嘩して殴ったんです」と若人はカ…

NO DRUG , NO LIFE

「そのクスリなんですか?」 ホスト君が朝食後に受け渡されてボクが飲んでいるクスリについて訊いてきた。 問題になりそうな種は自分からはまきたくはないが、うまい嘘が思いつかず、当たり前の口調で「HIVのクスリだよ」と答えた。 「HIVってエイズの…

家族の絆

家族への連絡は弁護士の先生からしてもらった。手紙を書くと伝えてもらったが便箋すらまだ買っていない。 本ばかり読んでる言葉づけの毎日なのに伝える言葉が見つからない。いや考えるのが苦痛なだけだ。再逮捕という事実はどんな気持ち(正しくはその気持ち…

雑居でゲイバレする

エロ本が回ってくる。スリ師さんのエロ本…そんなつもりはなくても踏絵として作用してしまうこの状況。ボクは…飲み込むようにページをめくって、丁寧に謝辞を述べ、スリ師さんへ返却した。 「14番さんは、バイなんですか?」とホスト君が聞いてくる。そっこ…

ゲイ男、雑居に入る

ここでは名前で呼ばれることはない。ランダムに付けられた数字で呼ばれる。今回ボクに与えられたのは14番(ジュウヨンバン)だった。 「14番、部屋移動だから準備して」といわれる。雑居に混ぜても問題ないであろうという判断が下ったわけだ。「他の人と…

地裁のマーガリンは警察署よりも2g少ない

昨日、地検において事件については黙秘したが予想通り勾留請求された。結果、本日は東京地方裁判所へ連日の押送となった。一旦、地検に連行され、そこから地裁へ行く者が一本の綱に繋がれる。ある意味、いや文字通り裁かれる者たちの「絆」である。「壁を向…

ボクだけが変わりゆく世界

検事調べのために東京地方検察庁へ向かった。数年ぶりの手錠の冷たさも腰縄の違和感も乗せられた護送車の薄暗い雰囲気も以前と同じだった。なぜか外の景色までもがまったく変わらないように見えた。警察署から地方検察庁への被疑者の押送のやり方はもう何年…