勘ぐりジャーニー 〜ファイナル〜
ハッテン場の個室で目が覚めたときにはチェックアウトの時間を大幅に過ぎていた。ボクは延長料金を支払い外に出た。冬晴れのとてもいい天気だった。太陽に照らされたボクの腕にもう注射痕は見当たらない。乾いた風にボクの勘ぐりも消えていった。今だったら帰れそうだと思った。
この一連のボクの勘ぐりは覚醒剤のせいではない。覚醒剤で捕まるかも知れないという不安が原因なんだ。捕まる不安がなければもっとうまく使いこなせる自身がボクにはある。
勘ぐりを手放したボクはいつものポジディブにもどる。
帰ってきた部屋は、いつもと同じ空気だった。
キメ明けのアディクトらしくボクは部屋の掃除をはじめた。スマホが鳴った。着信音の響きがまだ大きく感じる。
それはメインの職場からの継続雇用できないとの連絡だった。
覚醒剤で逮捕されたボクを受け入れることで、今後の会社の運営に差し障りが出て来る可能性があり、そのことを危惧する意見が強くあったそうだ。
納得できないこと、説明したいことはあったがやめた。
電話をかけてくれてた上司は目指すべき明確な社会像があって世の中のことをボクよりも確実わかっている人だったから。この事実にボクよりも傷ついてる気がしたし、悩ませるのが申し訳ないと思った。
西日に染まるキッチンの赤がとても鮮やかで美しかった。
大袈裟かもしれないが啓示だと思えた。
苦しい思い。わかってもらえないことへのもどかしさ、やるせなさ。
これからの人生に向けてしっかり覚えておけよと言われてる気がした。
やってもらえると期待していたのにやってもらえなかったことをいつか誰かに差し出せる力をつけたい。
そう思うと床を磨く手にさっきよりも力が入った。
収監まで後38日
ボクの個人情報もそこに入れてほしい。