だってハームリダクション

底付き体験が依存からのスタートだという説にはボクは疑義をとなえたい。アディクションの沼はいつだって底なしだから。

どちらかといえば、アゲアゲに上へ上へと遥か彼方、凧糸がプツンと切れてしまい視界没するようにきっちりと昇天できてこそ、依存を手放す準備ができたといえるのではないか。ボクは密かにそう思う。

だが現実そういう機会はほとんどない。

例えば、ハッテン場でキメるとして、リスクは必ずつきまとう。

「誰かにバレてしまうんじゃないか」

「店を出たときに職質をうけるんじゃないか」

「また妄想が出たらどうしよう」

覚醒剤はそんなリスクへの一抹の不安を巨大な被害妄想に変えてしまうときがある。

ボクは安心安全なキメセクを保障したい。

家に帰るまでじゃ足りない。家に帰ってクスリがキチンと抜けてしまうまで心置きなく楽しんでもらうためのサポート。

ヤリ部屋での貴重品の管理。セーファセックスの準備。オーバードーズの予防。退出時に外で職質をやってないかの事前確認。帰宅時の同行。その後の体調管理、メンタル面へのアフタフォロー。やることはいくつもある。

誰かの「ハブ ア ナイス フライト//」を陰ながら支える。「勘繰り入ったりしたら声かけておいで。オレが店出るまでサポートしてやるから。とりあえずしっかり楽しんできな」そんな言葉を準備したい。これだってハームリダクションだと思う。目指すは、ゆりかごから天国まで的福祉国家

 

こんなぶっ飛んだ企画を提案してみても、ボクの職場(いちおうクリニック)では「バカじゃないの」とは誰もいわない。

「捕まって社会から断絶させられることが一番のハームだからそれいいと思うよ」

「だったら、池袋のつぶれたラブホテルを買い取ってそういうコンセプトのハッテン場をやればいいんじゃないの」

「二丁目に使ってないビルあるからそこを避難場所にするとかどう?」

「一階に弁護士事務所入れてみるとか」

「じゃあ店の名前は『サンクチュアリ』にしよう」

「いや、『ヘブン』がいい」

イデアをかぶせてくる。

ボクはこの「ちょう気持ちいい」ほどの「レベル高けえ」リアクションに「何も言えねえ」とただ感服するばかりだ。

 

収監まで後35日

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『花束を投げる男』バンクシー

薬物依存の最大の後遺症は社会からの偏見だ。「こいつまだ反省が足りてないな」と思ったあなたに、どうかどうか伝わりますように。