勘ぐりジャーニー 〜ハッテン場編〜

東京に戻ってきたはいいが、ボクには居場所がなかった。きっと助けを求めたらみんな親身になってケアしてくれることはわかっているのにそれができない。こんな風にがんばれてしまう自分が心底嫌いなんだけど、それ以外に手段がない。

ボクはハッテン場に戻った。もちろん一昨日とは違う店舗だ。

とにかくゆっくり休みたかった。一人になりたかった。個室に入り、服を脱ぎ、布団に倒れ込んだ。ブレーカーが落ちるようにボクの意識はとんだ。気絶に近い意識の喪失だった。

どのくらい時間がったのだろう、ボクは倒れたときと同じ体勢で目が覚めた。時間を確認したく起き上がろうとしたら右足がつった。ひどい痛みにうめいた。筋肉を逆方向に伸ばさないと肉離れになる。体を動かそうとしたら新たな激痛がボクを貫いた。今度は背中をつってしまったようだ。右足に背中…もう何がなんだかわからない。声もでない。そして、こういうときに限って意識は鮮明になる。ボクはもう抗わず、痛みながら泣きながらただただ時間がすぎるのを待った。

少しずつ少しずつ痛みは筋肉の隙間に隠れるように消えていった。ボクはしばらく動けなかった。涙が乾いた頃、ボクは自分の空腹に気づいた。おそるおそる体を起こし、買っていた半熟ゆで卵とおにぎりをピルクルで流し込んだ。エアコンで部屋を温めてている間にシャワーを浴びた。

大きな睡魔に襲ってきた。ボクはやっと本当の眠りについた。

 

収監まで後39日

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『紙の動物園』ケン・リュウ

カズオ・イシグロっぽいなあと思った。ボクははじめの「紙の動物園」が一番好きでした。