担当さんの話

不安、諦め、絶望。昨日も今日も明日も、そういうものだけを食べて過ごしているとこういう顔つきになるのかもしれない。ぞっとするような暗黒の底なしの穴のような目がある。

勾留されている者ではなく、留置担当の警察官のことだ。

もちろん人のいい担当もいるが、根底には「せっかく警視庁に入ったのになんで留置担当なんだ」という思いが見え隠れする。

いたくている者はひとりもいない場所。だからこんなにも留置の空気は淀む。

 

面会室に入る。手前の椅子に座ろうとしたら「そっちじゃない!奥に座れ!」と担当に怒鳴られた。面会者の前で大声出すなよ。どうしてこんな不機嫌な態度を全くためらいなくフラットに表出できるんだろう。

名刺を差し入れしようとしてくれる同僚に「差し入れは16時30分までなんですよ」と切ってすてる。差し入れの話題が出てるときはまだ30分じゃなかった。どうしてその時に教えてくれないのか。

 

ボクは担当へうまく話しかけることができない。朝の挨拶さえもぎこちない。何気ない「おはよう」のすぐ後ろに恫喝が控えているような気がしてしまうからだ。

やさしい職員、普通の職員、厳しい職員がいたとして、とりあえずいつも厳しい職員仕様の自分でいれば問題は起こさずにクリアできる。相手をみて対応を変えるはとても疲れる。ボクはコンタクトレンズをせずに誰が誰だか判別をつけることのできない裸眼で過ごすようになった。

 

次はどんな理不尽を体験するのか。そんな予想をしなきゃいけない毎日を長く続けていると人はどんどんと蝕まれていく。どんなに心根のいいやつだってそうなってしまう。損なわれる。大事な部分がボロボロになる。こんなところに長くいちゃダメだ。ボクはここを早く出なければいけない。

 

 

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『黙の部屋』折原一

ボクは默の部屋を知っている。とてもよく知っている。つこないだ行ってきたばかりだ。どこかって?地検の待合室のことですよ。