天王山…負け戦

地検も今日で三回目。今回は、起訴不起訴のキーとなる捜査方法についての聴取がなされた。

「黙秘します」とボクは伝えた。

「弁護士はすぐに黙秘っていうからなあ。私はあなた自身の言葉で聞きたいんです」と検事に言われ、ボクははっきりしている事実に関しては供述することにした。

ボクの主張を全部聞いたあと、検事は防犯カメラに撮された映像を見せてきた。新宿駅周辺のすべての路上は24時間すきまなく録画されているらしい。(だったらボクが誰にも害を与えてないこともわかるだろうに)。しっかりと映し出されたあの日のボクは今と同じように必死に抵抗していた。その姿はとても小さく、ボクを弱気にさせた。

「あなたは自分の意志に反して捜査が行われたといいますが、よく見てください。あなた自分から走って逃げてますよね」いやーな指摘だった。

「走って逃げるほど嫌だった。拒否したかった」とは理解してくれないらしい。

「追いかけて捕まえて何が任意捜査だ」ってな具合のなんだかんだ、ああだこうだのゴタクをボクは並べ続けた。検事はひとつひとつ丁寧に(検察側の解釈で)論破してきた。

あっという間に一時間が経っていた。ボクがこれまで経験した中で一番長い調べだった。途中尿意を我慢できず、待ち合い室まで一度戻ったほどだった。

調べを終え、検事室を出たときには二時間半が経っていた。これだけの時間をかけて語ったのに話を聞いてもらえた感はさっぱりなかった。

待合室ではもう帰りの押送がはじまっていた。ボクが部屋に戻ると同時に「第10系統、押送準備」と号令がなされた。待たせたわりに何の成果もなく、ボクはうつむいたまま手錠のチェックをうけた。はやく立ち去りたい気持ちと後ろ髪引かれる気持ちが絡まりながらボクは引きずられるように地検を後にした。

 

 

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『後悔と真実の色』貫井徳郎

個人的に親和性の高い街「神楽坂」で事件は起きる。主人公が家族に「疫病神」と罵られるラストシーンが痛すぎる。