家族の絆
家族への連絡は弁護士の先生からしてもらった。手紙を書くと伝えてもらったが便箋すらまだ買っていない。
本ばかり読んでる言葉づけの毎日なのに伝える言葉が見つからない。いや考えるのが苦痛なだけだ。再逮捕という事実はどんな気持ち(正しくはその気持ちに添えられる言葉)も空虚なものにしてしまうから。
五年前、留置所からの手紙で息子の逮捕と覚醒剤使用とHIVとゲイである事実ををいっぺんに知ることになった母親は、ひとつひとつ受け入れながら時間をかけてやっと「付き合ってる人いるの?」と最近やっと子供のセクシャリティに関する話題を口にできるようになってきた。
そんな母親に再逮捕という名の絶望を届けたくない。そんな親不孝者である自分は受け入れがたい。
そして時間だけがたっていく。
どうしてこんな風になったのだろう。覚醒剤は性的快感と集中力を高めて、代わりにボクから想像力を奪っていった。こうなるであろう当たり前の未来図をイメージする力を取り上げてしまった。そして悪夢を想像できない愚かな男が生まれた。
幸せをつかんだ姿を見せて恩返ししたかったのに、更に道をすべらせて追い打ちをかけてしまった。いつまでも不憫な子供からのとどめの親不孝。
ボクの過去と家族をつなげる全てを消しりたい。
「もうこれ以上家族に迷惑かけて生きるのはいやだから、家族と縁を切る方法を教えて下さい」とボクは弁護士に助けを求めた。
「そうはいっても気持ちは切れないですからね」と弁護士は諭した。
傷つけ続ける痛みに耐える強さをボクは持たない。
縁を切れないんであれば、せめて名前を変えたい。気持ちが無理なら形だけでも家族の絆を断ち切りたい。ボクという呪縛から解放させてあげたい。
『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄
ふがいないボクが次に空を見るのはいつになるんだろう。「神様もこんなオプションつけんなよな」みたいなセリフにせつなくなった。