彩り浴場
留置所の風呂場は色とりどりに鮮やかだ。特に新宿署ではボクのようなしらふの肌は珍しい。湯船で最近入ってきた別の部屋の若い子と話をする。彼の体にもまだ彫り物はない。
「何やったの?」挨拶代わりに聞いた。
「彼女と喧嘩して殴ったんです」と若人はカミングアウト。
「どうなりそう?」
「弁護士の先生は示談でいけるといってるんでそんなに長くはならなさそうです」
「よかったね」
何がいいのかわからないがそう答えた。
やさしそうな(どちらかといえばまだあどけない)この顔が女性を殴る姿をボクは想像できなかった。
「お兄さんはなにやってんですか」
「覚醒剤」
「そうなんですね」
「覚醒剤はやめといたほうがいいよ」と助言しておいた。(これはアディクトのたしなみである)。
「5分前」と担当の大声が響く。ボクらは湯船を出た。
きっともう彼とは今後の人生ですれ違うことはないだろう。だがこういう出会いがここでの時間を成り立たせている。
ボクは背中に鉄条網の入れ墨を入れたいなあと思う。自分がもう自分の体から出ていかないように。自分以外のものが自分に入りこまないように。そんな願いをいつか背中に彫みたいと思う。
熱った身体を冷ませがてら、部屋までパンツ一枚で戻りながら、うつむきながら、そんな小さな決心をした。
『銃』
理性の中にとりこんで使いたいと思わせる彼にとっての銃はボクにとっての覚醒剤。