ポジショントーク

今回の逮捕でやめることになった職場が送別会をしてくれた。

正直気乗のりはしなかった。だけど逮捕以来一度も顔をあわせていない同僚たちに直接あやまりたかったし事情を説明しておきたかった。そのぎりぎりの義務感が背中を押した。

送別会自体、涙もあったが和気あいあいとしたアットホームな雰囲気だった。

流れに身をまかせて「出てきたら待ってるからね」「はい。わかりました」そんな笑顔のやりとりで終わらせることもできただろう。

やさしくされればされるほど、受け入れてもらえなかった事実が際立つ。

ボクの中の人格障害が騒ぐ。

「今回退職しなければいけなくなってとても悲しかったです。そして仕事を失いとても困りました」と本音を吐いてしまった。

シリアスなムードの中で伝えられたのは「これからアディクションについて理解を深めていきたい。うまく受け入れていけるような職場環境を作っていきたい。だけど申し訳ないけれど、今はその準備ができていない」そんな内容だった。

デジャヴ…あっそっか!前の職場でスリップしたときも同じことを言われてやめたんだっけなあ。

「そのために当事者として知恵を貸してほしい」とたのまれた。

ボクは監獄のレクター博士のようにその質問への明快な答えを持っている。

「受け入れることだと思います。どんな問題がおきるかなんかわからない。リスクなんていくらでもあげようと思えばあげられるし。でもそのリスクはルールや規則に姿をかえてたちどころに誰かをしめ出しかねない。何かがおこった時点でその問題を共有するそのプロセスが大事なんだと思います。受け入れない限り学びはない。だからまず受け入れることが大事なんです」

受け入れてもらえなかったボクが言えるはずもなかった。

職場の人達は社会問題に対してとても意識が高くアディクションについても理解は深い。

さらにボクというアディクトと(まあ若干難のある人格であったことは否めないが)一年半以上一緒に働いていたという実績もある。頭で理解して体験として共有できて、それでも共存をさまたげるその理由は何なのだろう。

ボクのしでかした事件で職場全体は泥水をかきまぜたようになったらしい。

その混乱をボクはいつも知ることができない。

ボク自身の泥のにごりもまだおさまっていない。

沈殿物と上澄みの間のすきとおった部分がきちんと分離されてすっきりと落ち着いた頃、ボクのこのうらみがましい、いじけた言葉選びも変わっているはずだ。

ボクはもっと過去の話を軽やかにやわらかに、そしてもっとさわやかに語れるようになりたい。