SOSのシャブ
ソーシャルワーカー仲間(女二人)とオンラインで飲んだ。数十年来の同士である彼女たちはボクの経歴を(つまりは過去の犯歴も)つぶさに知っている。今回、覚醒剤を使って捕まったことも、年末あたりから一切連絡がつかなくなったことにピンときて、様々なネットワークを駆使し、すでに情報収集していた。
海千山千の彼女たちにとってボクの逮捕は「彼氏ができない」「新しい猫が古い猫となじまない」「朝ドラのオダギリジョーがいい」そんないつもの飲み会のゆるいトピックと同列。たじろぐものではない。
今日の飲み会だってひとりが眠くなり、「じゃあ次は二年後くらいかな」ってもうひとりが切り出して、ボクが「差し入れ本よろしくお願いします」と答えたら「おっけー。わかった。どこに入ったか教えてね」と返して、ボクが最後に「手紙書きます」といってお開きになる。そんな心づもりだった。
「なんでそんな出てくるのが遅かったの?」と聞かれた。
「保釈金が用意できなくって、色々大変だったんですよ」
保釈金が準備できなくて…保釈保証協会で手間取って…のくだりをボクは説明した。
「…………」
「聞こえづらかったですか?保釈金が…」電波の調子が悪くて聞こえてなかったのかと思ってもう一度説明しようとしたボクを彼女は遮った。
「あーいやいや、聞こえてたよ。……うーーん…なんでかなあ…なんで言ってくれなかったの?わたしそういうお金がなくて出れなかったとかちょっと嫌。言ってくれれば出したよ。そのくらいどうにかできるから。なんか馬鹿らしいでしょう。お金なくて出れないとか。ほんと納得いかないから。言ってよね、次そういうことがあったらちゃんと頼って。どこでも連絡先そらで言えるように覚えといて」一気に姉御になった(もともと年上だが)。
もうひとりの方が「よかったね。いい話だね」と拍手した。ボクは「あざーす。次のときはお願いしまーす」と約束した。
ボクたちはソーシャルワーカーだ。薬物の再使用よりも、SOSを出す力に着目する支援者だ。その価値は共有できてるはずなのに、大事なときに実践できなかったボクに(それとボクに頼ってもらえなかった自分自身に)彼女は腹を立てたんだろう。
ボクはこのときまで、自分のことを褒められて伸びるタイプだと思っていた。だけど叱られても学べるタイプでもあるかもと思えた。
今度会ったときにはいくらくらいまで貸してもらえるか聞いてみよう。
収監まで後24日
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神楽坂の中華に行ったときに聞いてみたら『一千万円は無理」っ言われた。