ある薬物事件の公判の記録 4

真打ち登場。つまりボクの出番だ。

 

弁護士ーまずはあなたについて伺います。いまの仕事を教えてください。

ボクーはい。クリニックで訪問看護の業務をしています。

弁護士ーその仕事の内容について教えてください。

ボクー同僚の看護師と一緒に患者さんの自宅を訪問します。地域での孤立を避けるために、何かしらのサポートが必要な方の自宅を定期的に訪問して、生活や医療の相談にのるソーシャルワーク業務をしています。

弁護士ーなぜそのような仕事に携わりたいと思ったのでしょうか。

ボク→大学で福祉の勉強をしていたこと、僕自身セクシャルマイノリティなのでマイノリティ支援に興味があったからです。

 

弁護士ーでは、今回、あなたが覚せい剤を使ってしまったことについて伺います。2011年11月@日にあなたは覚せい剤を使用しましたか。

ボクーはい。

弁護士ーこれまでに覚せい剤を使用して起訴されたことがありますね。

ボクーはい。

弁護士ー依存症という言葉はご存じですか。

ボクーはい。

弁護士ー自分自身が「薬物依存症」であるかどうか、この点についてはどう考えますか。

ボクー自分は依存症だと思います。

弁護士ーなぜそう思うのでしょうか。

ボク→これまで何度も逮捕されて嫌な気持ちになっているのに、辞められずに、手を出してしまうからです。

弁護士ー覚醒剤を使用したいという気持ちは、日々、どの程度ありますか。

ボクー常にあります。

弁護士ー使いたいという気持ちをコントロールすることはできますか。

ボクーできません。

弁護士ーでは、毎回覚醒剤を使用してしまうのでしょうか。

ボクーいえ。違います。覚せい剤を使いたいとは常に思ってしまっているのですが、ほとんどの場合、別の自分がそれはダメだと自分に言い聞かせます。その時のストレス状況や、環境的要因などによって、ほとんどの場合、使わないで済んでいます。けれども、今回のように使ってしまうことがあるのです。

弁護士ー刑務所を出たのは平成2018年7月ですよね。

ボクーはい。

弁護士ー出所してから、はじめて使用したのはいつですか。

ボクー2021年9月です。

弁護士ーその時に使用したいと思った直接的な理由はどのようなものですか。

ボクーコロナの影響で他者との交流が制限された環境であり、仕事も私生活もひとりで過ごす時間がほとんどで依存症の支援者や支援グループなどと交流する機会が著しく減ってしまったことが原因だと思った。

弁護士ーさきほどのお話だと、「使いたい」と思っている。けれども、コロナ禍であったこともあって、いつものストッパーが機能しなかった。そういうことですか

ボクーはい。

 

弁護士ー保釈中でのあなたの過ごし方についてお聞きしたうえで、今後の再犯防止について聞いていきます。今回の覚せい剤使用の罪で逮捕されたのはいつですか。

ボクー去年の11月@日です。

弁護士ー保釈されたのはいつですか。

ボクー今年の1月@日です。

弁護士ー保釈されてから、今日にいたるまで、お仕事はどうしていますか。

ボクー以前から働いていたクリニックで週に2,3回勤務しています。

弁護士ー保釈の申立書のなかでは、NPO法人で働くと聞いていましたが、働いていないのですか。

ボク→有罪判決が予想されるので一度契約を解消するということになり、裁判の結果が出たあとに、再度雇用をできると約束を頂いています。

弁護士ー保釈中に誰かに定期的に、日々の悩みについて、相談はしていますか。

ボクー以前の職場の上司のIさんとボランティア先ののIさんとに定期的に面談してもらっています。

弁護士ーあなたが社会復帰した後に、覚醒剤をやめるにあたって具体的に考えていることを教えてください。

ボクー病院の専門プログラムを受けようと思っています。

弁護士ー保釈中であるいま、通院、投薬などに関してはどうしていますか。教えてください。

ボクー以前は定期的に病院に通っていたました。そこでは精神療法だけの治療でしたが、今回のことがあって、服薬療法も併用して行われるようになった。

・それは覚醒剤の再使用を防ぐうえでどのような意味をもつのですか。

ボクー使いたいという気持ちが大きくなったときにその気持ちをおさえるために薬を飲むんですが、回避の手段が増えることになります。

弁護士ー社会復帰した後はどこで働く予定ですか。

ボク→薬物依存症者への支援の現場で働くことが、自らの再発のストッパーになると考えています。

 

弁護士ー最後に何点か質問します。あなたはさきほど覚醒剤を使いたいという気持ちが「常にあります」と答えていますが、これは正直なお気持ちですよね。このお気持ちに直面化することは、覚醒剤を辞めるにあたってどのような意味があるのでしょうか。

ボクー私は、依存症です。覚醒剤を本当にやめたいと思っている以上、今の自分の直面化することが必要です。まずは今の自分をはっきりと認識しないと本当にやるめことは難しいと考えます。

弁護士ー先ほどお話していた専門病院でのプログラムについてですが、これまで通っていたことがあると思います。それでもあなたは今回覚醒剤を使用してしまいました。これらのプログラムは効果的なのでしょうか。

ボクー通っている間はやっていませんでした。自助グループにはコロナでオンラインになって通わなくなってしまい、病院には、仕事が忙しくて中断してしまいました。通っているときにはやめれていたので、今度こそ通い続けたいと思います。

弁護士ーひょっとしたら、どこかプログラムに通ってさえすればいいのではないか、という軽い気持ちがあったのではないでしょうか。

ボクーそれは否定できないと思います。自分ではコントロールできないほどの覚醒剤に対する思いがあると分かった以上、自分で勝手にやめたりせずに、どのような理由があっても、根気よく通い続けることが必要だと思います。

弁護士ー最後に、この法廷で「二度と覚醒剤を使わないことを約束します」ということを言えますか。

ボクー今の自分には、その言葉を軽々しく言う自信がありません。さきほどお話したように、覚醒剤を使ってしまうのは自分の意思の弱さが関係しないとはいわないけれど、自分の意思ではコントロールできない「依存症」という病気によるものだと思っています。依存の勉強をすればするほど、軽々しく「もう二度と使いません」というのではなく、「使わないための努力をし続ける」「辞め続ける努力をするもの」ということが重要であると思っていて、そうであるからこそ、この法廷でも軽々しく「二度と自分は使いません」とは言えません。けれども、自分が病気であるということを受け入れて、改めて、使わないための努力を続けたいと思っています。

弁護士ー以上です。

 

続いて

検察官ー前回の裁判では2度としないと言いましたよね。

ボクーはい。

検察官ー専門病院やダルクにも通っていましたよね。

ボクーはい。

検察官ー覚醒剤は自分でやめれるものだという認識はありますか?

ボクーはい、そう思っていたし。実際にやめれていると思っていました。

検察官ー「覚醒剤はこわいものだと思ってる」と言ってましたがどういう意味でいったんですか。

ボクー薬自体の怖さより、逮捕されることによって環境が変わることが怖いと思っていました。刑を軽くしてほしいという気持ちが強く、反省してる風に話している部分が強かったと思います。

検察官ー専門機関のサポートが必要で一人でやめることが難しいとはわかっていたんじゃないですか。

ボクー理解が不十分でした。

検察官ーまわりのサポートがあるのにどうしてあなたはうまく頼れなかったんですか。

ボクー………。

検察官ーまた繰り返す可能性はないですか。

ボクー前回と今回の逮捕の違いは逮捕前後で関わってくれる人達がまったく変わらなかったことです。ボクの弱点を知ってくれている人達が周りにいることを強みにしていきたいと思っています。

 

ウソはつかない。これだけは貫きたかった。貫けたと思う。