ある薬物事件の公判の記録 3

次に、職場のクリニックのソーシャルワーカーTさんが証言台に立った。

 

弁護士-まずはお名前を教えてください。

TさんーTです。

弁護士-どこに勤めていますか?

Tさんー@クリニックという精神科、内科の診療所で働いています。

弁護士-そこはどのような病院ですか。

Tさんー医師とソーシャルワーカーなどが中心となって生活困窮者の方をサポートすることを主としている病院です。

弁護士-患者さんはどのような方が多いですか

Tさんー主に路上生活者です。

弁護士-そちらのクリニックでのあなたの仕事内容について教えて下さい。

Tさんーいろんなご事情でホームレス状態になられ医療にかかりづらい方などを主な対象者とした訪問看護を行っています。

弁護士-訪問看護とは具体的にはどのようなことをしているんですか。

Tさんー主には身の回りのことを代わりにやったりしています。また精神的に不安定な方の場合にはその方からじっくりとお話を聞いたりしています。

 

弁護士-@さんと知り合ったのはいつですか。

Tさんー10ヶ月くらい前です。

弁護士-@さんはそのときどのような仕事をしていましたか。

Tさんー同じくホームレス状態の方の支援をされる団体で働かれていました。

弁護士-知り合った経緯について教えて下さい。

Tさんー支援団体同士でのミーティングを行うことがあってそこに参加されて会いました。

弁護士-@さんの当時の働きぶりについてあなたはどう感じていましたか。

Tさんー@さんは利用者さんをジャッジしません。悪いとかいいとかそういうことは言わないですし、ホームレス状態になった理由などについても聞いたりせずに、助けて欲しいというSOSに答えています。ルールや制度の間にこぼれ落ちてしまってホームレス状態になってしまった方々に@さんは丁寧に耳を傾けていました。

 

弁護士ーその後、そちらのクリニックで働くようになっていますね。

Tさんーはい。

弁護士-誰が声をかけたんですか。

Tさんー私です。

弁護士-@さんのクリニックでの仕事内容を教えて下さい。

Tさんー訪問看護を主に行ってもらっていました。

弁護士-働きぶりはどうでしたか。

Tさんー真面目だし、ユーモアがあります。周りを見てくださっていて安心でます。仕事については真面目に声掛けされる頼りがいのある方でした。

弁護士-具体的なエピソードはありますか。

Tさんー週一回の勤務でしたが、ミーティングには必ず参加されますし、その方の立場に立って言いづらいこともお話できる自分の意見を持った方でした。

 

検察官―覚醒剤依存についてお聞きします。クリニックの患者さんは主に路上生活の方が多いということですが、依存との関係で患者さんにはどういった特徴がありますか。

Tさんーアルコール、薬物、ギャンブル依存など依存を持った方がたくさんいらっしゃいます。そういう方には職場内で討議して相談したり、依存について向き合うにはどうしたらいいのかケースごとに相談したりしています。

弁護士-あなたは覚醒剤を何度も使用してしまっている方が覚醒剤をやめるためには何が必要だと思いますか。

Tさんー孤立させないことが大事だと思います。悩みを打ちあけられるような環境が大事です。その人が社会と積極的に関わって行きていけるような社会が必要だと思っています。

 

弁護士-あなたは@さんが社会復帰をするにあたってどのようなことができると思いますか。

Tさんーむしろ今よりも働いてもらいたいと思っています。私がモットーにしていることがあって、それは「公私混同」です。一緒に働きながらいろんな話を重ねて日々生きていきたいと思っています。社会にもまれながら、一人にさせない、お互いにおせっかいを焼きながら積極的に関わり生きていくことが最も日本社会が求める使用させない、更生するということだと思っています。

 

弁護士-公私混同とは具体的にどんなことができるんですか。

Tさんー非常勤ではなく、常勤で働いてほしいと思っています。一緒にいる時間が長くなればなるほどいいと考えています。

 

弁護士によるTさんへの証人質問が終った。続いて検察からの質問になる。

 

検察官ー被告人は事件の時期、@クリニックではたらいていましたか。

Tさんーはい。

検察官ー事件を起こしたことについてはどう思われますか。

Tさんー支援をしていなければいけないという気持ちはありましたが、その意識がうすかったと思います。それは彼が頼りになり、私が助けられている関係だったからです。

検察官ー覚醒剤は再犯の恐れがあることはわかっていたのに、なぜちゃんとみてあげようと思えなかったんですか。

Tさんー週一回しか会えておらず、どんな気持ちなのかを聞く機会が少なかったからだと思います。反省点です。

 

検察官ーこれからの治療は具体的にどういうことを考えているんですか。

Tさんー本人と話をして治療方法を選択していきたいと思っています。

検察官ークリニックでどんなフォローしていくつもりですか。

Tさんー患者という立場で関わるのか、職場の仲間として関わるのかで変わると思います。

検察官ー具体的ではないのか?

Tさんーこれから話していきたい。

検察官ーさまざまな治療方法があることを知っていると思いますが、これから決めていくんですか。

Tさんー依存症の方に対する治療については合う合わないがあります。必要なときに必要なものを提供すること、それを選択していく過程が大事だと思っています。

 

検察官ー被告人には家もあり仕事もありそこでの人間関係もあって、孤立しているわけではないと言えるのではないでしょうか。

Tさんー家がある仕事があるからといって孤立してはいないとは言えないと思います。離れていても心の中に心配してくれる人がいる、大事にしている人がいることが孤立ではないと私は思っています。

 

検察官ーなぜ薬物が規制されているとあなたはお考えですか。

Tさんー体や心に害があるからです。

検察官ー矯正施設で薬物のプログラムで行われていることは知っていますか。

Tさんーはい。

検察官ー被告人がそういうプログラムに参加していたことも知っていましたか。

Tさんーはい。

検察官ーあなたはやめるためのお手伝いがほんとうにできるんですか。

Tさんーやめるお手伝いと言うか、私ができるのは社会で生きながら当たり前に友人や家族と交流し、働き生きていく、それを毎日重ねていくことを近くでともに支え合うだけです。むしろ刑事施設に何度行っても覚醒剤使用が繰り返されていること自体が意味のない時間だったという証拠ではないでしょうか。社会から離れた場所での回復は形だけのものだと言えるのではないでしょうか。人はその人が生活し続ける場所で他者と関わり合いながら苦労し工夫して話し合い振り返り、新しく生きる楽しみを見つけていくことが回復の手段であると思っています。

 

二人の証言に少し泣きそうになってしまった。