ある薬物事件の公判の記録 2

まずは、情状証人の一人目である前の職場の上司のIさんが証言台へ立った。

 

弁護士―あなたのお名前を教えてください。

IさんーIです。

 

弁護士―どのようなお仕事をしていますか。

Iさんー大学で教員を務めるかたわら、住まいを失った生活困窮を支援する活動をNPO団体でやっており、私はその代表になります。

 

弁護士―その活動内容についてもうすこし詳しく説明していただけますか。

Iさんーホームレス状態にある人を中心とする生活困窮者の暮らしや住まい、仕事の支援を行うとともに、ホームレス問題解決のネットワークづくりや政策提言を行う団体です。

 

弁護士―@さんとお知り合いになったのはいつごろですか。

Iさんー2020年の6月です。

 

弁護士―そのような経緯で知り合ったのですか。

Iさんースタッフの募集に彼は応募してきたので事務所で面接を行いました。

 

弁護士―面接の結果はどうでしたか。

Iさんー採用となりました。

 

弁護士―雇用した理由について教えて下さい。

Iさんー当時は、ホームレス状態の人達の相談支援業務を担うスタッフを募集していました。路上生活者には精神疾患や知的障害を抱えている方が多いので、@さんの療機関や福祉施設でのソーシャルワーク業務の経験があった点が評価されました。

 

弁護士―面接での人柄についてはどう感じましたか。

Iさんー彼が気さくな人柄であることがわかり、ホームレス問題に高い関心を持っている点も採用の決め手になりました。

 

弁護士―@さんの働きぶりについて教えて下さい。

Iさんー私は@さんより活動歴が長く、彼の上司にあたる立場でしたが、@さんが路上生活の人達やコロナ禍の経済的影響で住まいを失った人達に寄り添って支援をしている姿には敬意を感じていました。所持金が尽きて路上で途方にくれている方からのSOSが入ればすぐに駆けつける@さんの姿は非常に印象的でした。

 

続いて検察側からの質疑に移る。

 

検察官ーあなたはこれまで覚醒剤の方へのケアをしてきた経験はありますか。

Iさんー相談に来られる方で覚醒剤の使用の方や刑務所に入っていた方も多くいました。

 

検察官―本人にとって証人が行えることとしてはどう考えていますか。

Iさん一今後も一緒に生活困窮者支援の仕事をしていきたいと考えています。今後は対面で話す機会を増やし、仕事上の悩みを共有して、愚痴もいいあいやすい環境をつくりながら、彼の精神的な負担を軽減できればと考えています。

 

検察官―医療機関との連携について具体的な話は出ていますか。

Iさん-彼が孤立せず仕事を続けられるようクリニックと連携していくつもりです。困窮者支援の仕事を続けながら薬物依存症の治療を継続できるよう、話し合いの場を作っていきます。

 

検察官―生活する場所はどのように考えているのか。

Iさん-わたしが代表をつとめる別の団体では住宅支援のサポートを行っているのでそこで受け入れる準備はあります。

検察官―それは集団生活なのですか。

Iさん―アパートの一室を借り上げた形でのものになります。

 

検察官―同居として監督する予定はないんですか。

Iさんーありません。

 

検察官-職場に復職した後の勤務時間はどのように考えられていますか。

Iさんー以前は常勤で働いていました。今後については他の職場との兼ね合いをみて決めていきたいと思っています。

 

検察官―以前被告人が覚醒剤の事件に関与にしていたことは知っていましたか。

Iさん-はい。

 

検察官-ダルクに行こうと思っていたとは知っていましたか。

Iさんーダルクの話は聞いたことはありませんが自助グループに行っていたことは知っていました。

 

検察官―そういうところに通っていたことに関わらずこういう風に再販ということになったことについてはどう思っていますか。

Iさんー彼の健康状態については気にかけていました。ただコロナ禍で相談件数が急増する中で、さらに在宅勤務になり本人と直接対面で話せる機会が少ななくなりました。彼の健康状態への配慮が不十分であった点は反省しています。

 

検察官―やれることはやっていたという認識だったんですか。

Iさんーそれは私がということですか。

検察官―そうです。

Iさん-私を含めてそれぞれ気をつけてはいました。

 

検察官―居場所づくりや協力、信頼といったことでは、覚醒剤の使用を止められないということをいみじくも示していませんか。

Iさんー依存症からの回復という観点に立てば、刑罰ではなくご本人が社会の中で居場所と役割を持てるようサポートすることが最も重要だと考えています。

 

検察官-こちらからは以上です。