つなぐ女

「子供の頃に好きだったアイドルは誰?」と聞かれたときに「そういうのハマった経験がないんだよね」と答える人にボクは優越感を感じる。

ボクにはいる。まぎれもない確かな象徴。数十年にわたるマイミューズ。

それは小泉今日子だ。

警察に捕まるたびに、生活そのものを断捨離してきた人生で、逮捕前と後とのボクをつなげる唯一の存在が彼女だった。彼女はボクが取り返しのつかない事件を起こそうが、お構いなしにいつも笑ってくれた。

好きなアイドルがいるという事実は人生の危機的な場面を乗り越えるための実用的なツールとなりえる。

デビュー40周年を記念してコンサートツアーをやるという情報はかなり前に入手していた。ボクはぬかりなく中野サンプラザのチケットを手にした。ものすごく楽しみにしていた。

そんな矢先の逮捕。

留置所の中で「コンサート行けないかも」と絶望した。

保釈され公判の日程が決まる。この分では3月にはもう塀の向こうだ。いやな予感はいつも当たる。

打ちひしがれるボクをみた友人が地方の公演でも行っておいた方がいいと背中を押してくれた。

 

そしてそして、やってきたは相模大野。

一番の歌詞がすっぽりとんだ「なんてったってアイドル」。

「夏のタイムマシーン」の映像。

木枯しに抱かれて」のサビの危うさ。

イエーイ!とアンサーできないサイレントな「学園天国」。

ラストに「東の島にブタがいたVol.2」をもってくる心地よい裏切り。

見どころだけでできたライブだった。

「40年。がんばったよね。私もみんなも」と彼女はいった。

「うん。がんばった」こころの中でボクは答えた。答えた限りは頑張らなければと思った。どんなに収監生活が長くなろうが乗り越えようと誓った。

 

収監まで後25日

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中野の公演のチケットはこの時一緒に行った友がもう一回行きたいって買い取ってくれました。一件落着。