落星前夜

はたして有罪判決を前に壮行会を催してもらえる被告なんて世の中にどのくらいいるのだろう。
ボクはやってもらった。
誰かのやさしさにまず甘える。それが一番はじめにできる恩返しなのである。
職場でこじんまりやろうとの計画だったが、あの人もこの人もとどの面下げて欲張った結果わらわらと集まる集まる。
保釈中の恥はかきすて。この事件がそれぞれのよき出会いのハブになればと思った。
主賓なんで挨拶した。
「今日の裁判はとてもいい裁判だと思いました。
前回は弁護士の先生と二人きりで、反省して更生をちかって、ハームリダクションなんて言葉がまだなかった頃だったし、もやもやしたまま、けど裁判ってのはそういう場所だとわりきったものでした。
今日のボクは反省する男という立場だけでいることができました。
社会復帰と更生についてはIさんとTさんにおまかせできたし、薬物政策について思うことは先生の最終弁論が全部代弁してくれました。
これを一人で話すとなると「あなたそんなに欲ばって、ただ刑務所に長く行きたくないんでしょ」ってつっこまれそうで…
今日はほんとうに楽させてもらえました。
今日みたいな裁判はきっとめずらしいんだと思います。ボクはめぐまれています。ありがたいです。
家は三回建てないと納得いくものはできないと言いますが、裁判もそうなのかなあと。
三回目でやっと…四回目はないようにしたいです。
出所後の自分の人生をわくわく思える機会というか環境を与えてもらい感謝しています。
捕まってよかったとは思えませんがいつかそう思えそうな気もしています。
何はともあれありがとうございました。じゃもう一回カンパイしましょう。カンパーイ!」
判決は来週。こんな風に落星前夜はぐんぐんと盛り上がり、どんどんとふけていくのであった。